kahsuke5555のブログ

本の感想について書いています。

(6冊目)飯嶋和一「黄金旅風」小学館文庫。

出掛けた時に、鞄の中にこの本を入れてしまったのが良くなかった。

一度読み出したら、続きが気になってしまって止まらない。

ちょうどJR東日本でスタンプラリーをやっていた時期。橋本からスタートして茅ヶ崎、小田原、逗子、横浜、千葉と移動し、最後は君津。

この本を読んでいたついでに、駅でスタンプを押していたと言った方が正しい。


実は、僕はできるだけ飯嶋和一さんの本を読まないようにしている。

読んでしまうと、次の読む作品が1冊減ってしまうのだ。そうボヤキたくなる位、この人はとにかく寡作だ。30年以上のキャリアがあり、途中から専業作家になったにも関わらず、その作品は10に満たない。


ただ、その作品はどれも重厚で大変に面白いと言われている。ファンからは敬意を込めて「幻の直木賞作家」、「稀代の歴史小説家」と呼ばれ、出版社のフェアの帯には「飯嶋和一にハズレなし」と書かれる。

「始祖鳥記」に至っては「全日本人必読!」と来た。それが、決して盛りすぎではない所が怖い!


そのレアさも含めて、もはや生きている伝説といってもいい。僕も含めて、とにかく読んだ人を夢中にさせてくれる作家だ。


そしてこの本も、とても楽しく読みごたえのある歴史小説だ。

舞台は、1630年前後の長崎。主人公は長崎代官の二代目末次平蔵。そして、その親友の内町火消組頭・平尾才介である。

二人は子供の頃に同じ神学校に通い、教師のいう事を一切聞かず、乱暴狼藉の限りを尽くす。最後には教師を半殺しにした挙げ句、放校されてしまう。家族ももて余してしまう乱暴者の放蕩息子だ。

そんな二人だが、既存のものの見方に囚われない本質を見抜く力が持っている。それだけではなく仲間や部下への情に篤く、彼らを慕うものも多い。

飯嶋さんの作品には、こうした権力に媚びへつらわない、自分の大切なものをストイックなまでに希求する男たちがよく登場する。その姿はとても魅力的だ。


きっかけは、才介の配下の火消の謎の失踪。ただ、それは氷山の一角に過ぎない事を思い知らされる。父の謎の死で、歴史の表舞台に立つ事になる平蔵は、才介たちとともに、本当の敵と対峙することとなる。

キリシタン弾圧、一触即発の海外との関係。三代将軍・家光と大御所・秀忠との微妙なパワーバランスと、その下で権力や利権争いに暗躍する重臣たち……。様々な要因が、次々に登場し、複雑に絡み合う。

一手舵取りを間違えると、己の身が破滅するだけではなく、多くの人達を巻き込む事になる。ただ正義をなすだけでは、とても渡りきれない。

そんな絶体絶命の状況をどう着地させるのか。読んでいると、ハラハラするだけでなく、次の展開が待ち遠しくなって仕方がなくなってしまう。


そうなってしまったら、もう終わりだ。後は、最後まで読むしかない。

そして、また一つ、読んだ事のない作品が減っていくのだ。