kahsuke5555のブログ

本の感想について書いています。

(2冊目)日高トモキチ「レオノーラの卵 日高トモキチ小説集」光文社。

年末、下北沢にある本屋B&Bさんのイベントに行ったときに、瀧井朝世さんが今年面白かった本の1冊としてあげていたのが、この「レオノーラの卵」。

日高トモキチさんって、何者?」

って思いながらも、何だか面白そうだと思い、年末最後の本屋さんでの買い物で購入して読んでみることに。

日高トモキチさんは1965年生まれ。早稲田大学出身で、漫画家であり、イラストレーターであり、作家さんであるらしい。情報が多くなると、本質が分からなくなる。その典型だ。

どうやら、この作品が著者にとっては、始めての1冊のものとして刊行された小説らしい。なるほど、だから「小説集」と謳っている訳ね。


年明け、あの「黒牢城」と平行して読んでいました。ベクトルは全然違いますが、面白さだけだったら、のちの直木賞受賞作に負けていない。


そして1月半ば。今年、最初の読書会。どちらを持っていこうか、かなり悩みました。どちらの作品も一人でも沢山の人に読んでもらいたいですし。

「黒牢城」は別に自分が紹介しなくても、いくらでも他の人が紹介してくれそうだということもありますし、こっちかなと傾きかける心。

けど、僕が選んだのは「レオノーラの卵」ではなく米澤さんの作品の方。理由は、この小説集を巧く説明する言葉が思いつかなかったから。既存の「~っぽい」とか「~というジャンル」という表現を使おうとしても、どうしても自分の引き出しの中にある言葉ではしっくりとくるものが思い浮かばない。

けど面白い。そして、この面白さを、ネタバレしないように一人でも多くの人に伝えたい。自分の語彙の少なさが悔しくなってくる。


幻想文学、大人の童話、超絶技法のパロディ小説、文字で書いた漫画や絵本……。

確かにそうした一面もあるだろう。7編の短篇で構成された作品集だ。ひとことで語りきれない多様な側面がある。けど全部そうだともいえるし、それだけではないようにも思える。


そんな風に悩んでいる時に、日高さんのインタビューを読んでいたら、ご自身の作品を「与太話」と評している部分があり、「なるほど、言い得て妙だ」と思った。この言葉をキーワードにすれば、何とか説明できそうだ。

宮沢賢治、ガルシア=マルケス、ピーターパン、エルトン・ジョン、赤木しげる、マリイ・セレスト号事件……等々。この作品集には、実に様々な作品や事件や人物のキーワードが散りばめられている。

それを見ているだけでもワクワクしてしまう。本当に博覧強記なお方だ。

日高さんは、これらのキーワードを差別せずに扱う。だから自由だし、それが化学反応を起こし、見たことのないものを産み出す。

そして、そのエネルギーを、バカバカしくておかしいものを作り出すためだけに注ぎ込む。だから、そこには教訓のようなものは何もないかもしれない。けど抜群に面白い。まさに「与太話」だ。

その知識の扱い方は、少しだけ寺山修司に似ているようにも感じられる。知識ってこういう風に使いたい。そんな憧れさえ抱いてしまう。


そんな自由な発想から生まれた作品は、私たち読者の頭の中に、とても豊かなイメージや映像の世界を作り出す。言葉だけで映像を喚起させる力が強い所は、落語と重なる部分がある。

言うまでもない。落語はずっと昔から「与太話」をやり続けている芸能だ。


「小説は真実より奇なり、じゃよ」
「なに当たり前のこと言ってるんですか」

本書の中の一節だ。

私たちはそうあるべきだと信じて小説を読む。けど、残念だけどそれが叶わないことが、往々にしてある事を、経験上知っている。

ただ、この本についてはその心配は全くの無用である。この部分については紛れもない「真実」である。それについてだけは、自信をもって言える。